【Tarzan】
朝だるいのは、体内時計のズレをリセットできないのが原因。


出勤30分前に目を覚ましたのはいいけれど、あ〜布団から出たくないだるい眠いカラダが重い。朝からこんなに疲れてて、今日一日もつんだろうか、自分……。 疲労と睡眠は非常に密接な関係にある。それもそのはず、睡眠とは脳とカラダの疲れを取るための大事な生理的活動だからだ。 つまり朝っぱらから疲労感を感じているということは、その生理的活動に何らかの問題があるということ。 朝ぱちりと目が覚めて、夜になったら眠くなる。当たり前のように人は毎日眠っては目覚めるという行為を繰り返している。 けれど、そもそも睡眠と覚醒のリズムは何によってコントロールされているのか? その基本を知ることが朝の疲れを改善するための第一歩。
生物のカラダには体内時計というシステムが備わっている。地球の自転に従って効率よく生きるために備わったシステムだ。 ところがこの時計、地球の自転にぴたり一致しているわけではない。睡眠学の専門家、滋賀医科大学睡眠学講座の特任教授・宮崎総一郎さんによれば、 「人間の体内時計は平均すると24.1時間くらいです。睡眠障害の患者さんでは25時間という人もいます。 25時間で暮らしている人が好きな時間に起きて好きな時間に寝ていいとなったら、12日間で昼夜が逆転することになります」 実際、下のグラフをご覧いただこう。確かに25時間の周期に従って寝起きしていると、睡眠時間がどんどん後ろ倒しになっていくことがお分かりだろう。 何時に寝たっていいじゃない。タイミングにかかわらず、眠りさえすれば疲れは解消されるはず。 いいや、それは大きな間違い。ヒトは夜行性の生き物ではない。日中に活動し夜間は休息をとる。カラダのすべての機構はそうしたサイクルに適合するようできている。 で、一日のサイクルを決定づけているのが朝の起床。朝一番、どういう行動をとるかによって日々の疲れ具合は大きく左右されるのだ。

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「早寝早起き」ではなく「早起き早寝」。

「眠る時間は起きたときに決まります。睡眠リズムを整えるポイントは〝早寝早起き〟ではなく、〝早起き早寝〟なのです」(宮崎さん) その理由のひとつは、前述の体内時計システムにある。朝起きた後、およそ15〜16時間後、メラトニンというホルモンが脳から分泌される。このメラトニンこそ体内時計システムの最も強力な因子。 メラトニンは体温を下げ、呼吸や脈拍、血圧を低くし、眠る状態に適した生理的変化を促す、いってみれば〝眠り〟のホルモン。 朝8時に起床する習慣のある人なら、夜の11時頃から急激にメラトニンの分泌が上昇し、12時には安らかな眠りにつけるという具合。 逆をいえば、朝の起床時間が遅ければメラトニンが分泌される時間も遅くなり、夜中でも眠くならない。 無理に早起きをしても1日にズラせる体内時計は1時間程度。ようは早起き習慣をつけることが疲労解消の基本。

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カーテンはきっちり閉めず隙間を開けよ。

睡眠リズムを整えるためには、早起きに加えて、もうひとつ重要な条件がある。それは太陽の光だ。 目から入った光の情報は脳の体内時計の中枢に働きかけ、時計を地球の自転に合わせる。 右ページのグラフでは、暗闇で起床すると体内時計は25時間のままだが、朝光を浴びるとたちまち体内時計サイクルが24時間にリセットされている。 「朝起きたらカーテンを開けて、太陽の光を30分浴びる。これで体内時計は24時間サイクルにリセットされます」(宮崎さん) もっといえば、眠る前にカーテンを開けておくのがベター。 「光が入ってくると縫線核という交感神経の中枢が刺激され、そこからセロトニンが分泌されます。 このホルモンが脳の覚醒を促し、心拍数や呼吸数を上げ、カラダが起きる準備を自然と整えるのです」 起床直前から朝の光を浴びることが、スッキリ早起きのコツなのだ。

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朝食、それはカラダの目覚ましアラーム。

アメリカ南部、アラバマの農家の朝食は豪華で有名なのだという。朝からボリューミーな卵やステーキをもりもり食べているのだとか。 体内時計のコンダクターは脳の視床下部、視交叉上核という部位。 朝の光の刺激がここに伝わると、24時間よりちょっと長い体内時計のズレがリセットされて、地球の自転と同じ24時間モードになるのだ。これは、もう説明した通り。 ただ、光で脳だけを刺激すればいいってわけではない。カラダの方も朝一発目に覚醒させておかなければいけない。 「心臓や肝臓、全身の組織にも体内時計が備わっています。これらは朝食を食べることでリセットされるのです。 光を浴びて朝食を摂ることで頭とカラダの時計が同調し、元気に動けるというわけです。前の晩から朝食までの絶食時間が長いほど、その効果は表れやすいことが分かっています」(宮崎さん) 確かに、夜食を食べたら翌日の朝は食欲が湧かない。夜は早めに済ませて朝はゴージャスに、が頭とカラダを覚醒させるのだ。 なんなら夜のおかずを1品朝食に回す手もあり。明日の朝食はアラバマ式といこう。

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集めのシャワーで全身に活を入れる。

自律神経の機能全般が低下して、それが原因で睡眠リズムが乱れることもある。 日中は交感神経が優位の状態でバリバリ動き、夜間は副交感神経が主導権を握って、心身ともにリラックス状態にもっていく。それではじめて良質の睡眠が得られるからだ。 そこで、取り入れたいのが手軽にできる自律神経強化法。 「自律神経は体温調節に関わっています。ですから、たとえば朝一番に温度刺激で感覚系の神経をドライブさせ、交感神経を刺激することも有効。 熱めのシャワーを浴びたり、冷たいタオルを顔に当てたり、タオルで肌をこする乾布摩擦を取り入れるのも効果的です」(渡辺さん) どうもパリッとしない朝は、熱めシャワーをサッと浴びてスタート。

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取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/大塚砂織  取材協力/宮崎総一郎(滋賀医科大学睡眠学講座特任教授)、渡辺恭良(大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター長)、 石川三知(Office LAC-U代表、管理栄養士)