【Tarzan】
走力が上がるほど危ない!? 間違いだらけのランニング。


ブームの功罪でランナー人口が増えた半面、間違ったランニングも激増中。

【NG!】レースのあとは湯船でカラダを芯から休める。

日本の本格的なマラソンシーズンの幕開けは秋以降。寒い季節だから、ゴールしたらお風呂でまったりしたくなるのはわかるが、 10Kのように短いロードレースはともかく、フルマラソンを完走後は足腰を中心に急性のスポーツ障害を起こしているようなもの。 自分では平気なように思えたとしても、顕微鏡レベルで見ると筋肉や関節は傷ついており、あちらこちらで炎症を起こしている。 そんな状態ですぐお風呂に入るのは傷口に塩を塗り、火に油を注ぐようなもの。 血行が良くなりすぎて炎症が広がり、筋肉や関節はダメージからの回復が遅くなってしまう。
入浴前にぜひやりたいのが、アイシング。アイシングは、急性のスポーツ障害に対するもっともポピュラーな対処法。 氷と水を入れたスポーツ氷囊や凍らせた保冷剤などで患部を冷やして、炎症などを抑えるコンディショニング法である。 入浴するなら、火照りを感じる場所を中心にアイシングを終えてから。 早くさっぱりしたいときはシャワーでさっと汗を流して乾いた服に着替えてから、じっくりアイシング。 炎症が治まってから入浴しよう。

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【NG!】貧血になりたくないからレバーを食べる。 

貧血とは、血液中で酸素を運ぶ赤血球、あるいは赤血球の本体であるヘモグロビンの濃度が基準値を下回った状態。 ランニングは、赤血球が運ぶ酸素を介してエネルギー代謝を行う運動だから、貧血だとポテンシャルが十二分に発揮されない。 貧血でいちばん多いのは鉄欠乏性貧血。ヘモグロビンは鉄とタンパク質が合体したものだから、鉄分が不足すると貧血になりやすい。 鉄分はレバーやヒジキに豊富だから「貧血になりたくないからレバーを食べる」のは理論的に間違ったチョイスではない。 ただし、それは日常生活レベルの話。ランナーは着地のたびに足裏を走る毛細血管で赤血球が壊れやすく、普段より多くの鉄分が求められる。 それをレバーやヒジキで賄おうとすると大量に必要になり、日々の食事から摂るのは困難。栄養は食事から摂るのが基本だが、ここはサプリメントのお世話になろう。 同様にタンパク質の欠乏もヘモグロビンの機能低下を招く。肉類、魚介類、卵、大豆食品から良質なタンパク質を毎食補おう。 これらのタンパク質源に含まれるグルタミンというアミノ酸には造血作用を高める作用もあるから一挙両得である。
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【NG!】走る前にがっつりストレッチをする。

反動を使わずにカラダを静かに伸ばす静的ストレッチは筋肉の柔軟性を高めて関節の可動域を広げる。 肩こりや腰痛の緩和などに有効だが、走る前にがっつり静的ストレッチをするのは間違い。理由は2つある。 筋肉と関節は柔らかいほどいいわけではない。関節は安定性と可動性という2つの機能を持つ。 静的ストレッチに夢中になりすぎると可動性ばかりが向上し、安定性がダウン。関節に適度な可動域があり、筋肉がある程度の硬さを保つと運動時の動的な安定性が確保される。 動的安定性がないと正しいフォームが取れず、着地衝撃が跳ね返せないのである。 もう一つの理由を岩本さんは独特の表現でこう説明する。
「ボールが目の前に飛んできたら反射的に目を閉じようとしますが、静的ストレッチはゆっくりボールを動かして目を閉じないようにするようなもの。 筋肉には、急に伸ばすと反射的に縮もうとする伸張反射という働きがありますが、静的ストレッチでゆっくり伸ばすと伸張反射がブロックされます」。
ランに限らず、あらゆる運動は伸張反射を活用している。事前に静的ストレッチを行うと、走りの経済性がダウンする可能性もあるのだ。

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【NG!】脚力を鍛えるためにトレイルランニングを行う。

息の長いブームが続いているトレイルランニング。山の自然を楽しみながら不整地=オフロードを走るのだ。 なかにはトレランをマラソンの練習に取り入れるランナーもいるけれど、マラソンが行われるアスファルトのオンロードとトレランで走るオフロードでは走り方が違う。 気分転換に行くのはよいが、本格的に練習に取り入れるとフォームが乱れて走りの効率が落ちることもある。 急な上りで心拍数が上がって持久力が向上するという説もあるが、それならわざわざ山に行かなくても平地でインターバル走をやれば済む話である。 マラソンもトレランも両方とも楽しみたいならOKだが、自己ベスト達成のためだけにはるばるトレイルに足を踏み入れる必要はない。 トレイルに行く時間があれば、岩本さんが薦めるのは峠走。舗装された道を駆け上がり、峠に着いたらUターンして下ってくるのだ。
「上りでは心肺機能と推進力が上がり、下りでは着地に耐える筋力と速い動きに対応したフォームが身につきます。 この4つの能力を一挙に高めるのは欲張りですが、峠走なら上りと下りで別々に無理なく鍛錬できます」。気になる人は週末に試してみよう。

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【NG!】レース前夜はカーボローディングで盛り上がる。

運動の2大エネルギー源は糖質と脂質。ランニングでは糖質と脂質は同時に使われるが、体内での糖質の貯蔵量は脂質より少ない。 そこで事前に糖質貯蔵量を増やすのが、カーボローディング。糖質はご飯、パン、麺類などに豊富。 およそ1週間前から糖質の摂取量を徐々にビルドアップ。前日の夕飯には仲間で集まり、パスタをたらふく食べるパーティで盛り上がるというランナーもいる。 それで自己ベストが出れば問題ないが、失敗レースに終わった経験がある人はカーボローディングが足を引っ張っているのかも。
「パスタに限らず、前夜に過食すると胃腸も肝臓も徹夜で疲弊。カラダも重くて実力が出せない。身軽な方が走りやすいので前夜は腹八分目が鉄則。 カーボローディングが必要なのはレース当日の朝からスタートまでです」。 朝食で消化の良い糖質を摂ったら、その後もお餅やエネルギー系ジェル、バナナなどで糖質をサプライしよう。 前日までにパスタでカーボローディングを試すなら、クリーム系やオイル系のこってり&高カロリーなソースは避けて、あっさりした和風の味付けで食べるのが正解である。

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【問題】フォームを自分でチェックする場合、いちばん重視するべきポイントは次のA〜Dのどれ?

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【解説】ランニングは仲間と一緒に走ると一層楽しい。都市部を中心にランニングクラブ(ランクラ)に入って練習するランナーも増えているが、 自らも人気ランクラを主宰している岩本コーチは「ランクラでみだりにやってはいけないことがある」と言う。 それはフォームを仔細にチェックしてもらい、そのアドバイスに基づいてリセットしようとすることである。
「走り方は一人ひとり違いますし、子どもの頃習得したフォームを後天的に変えるのは難しいもの。僕がアドバイスするのは、肩甲骨を寄せて骨盤を前傾させるという2点だけ。 それくらいなら修正可能ですが、それ以上の細かいアドバイスはしません」。 プロ野球のピッチャーでも、コーチの意見に従ってフォームを改造したばかりにバランスを崩してキャリアをダメにするケースもある。フォームを安易にいじるのは禁物なのである。 むろんランクラ自体は有益。走力を上げるにはインターバル走やビルドアップ走といったしんどい練習が不可欠。 ハードなトレーニングは一人だと辛すぎるが、ランクラなら仲間と励まし合いながらこなせる。思い思いのフォームで走りを楽しもう。

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取材・文/井上健二 撮影/谷 尚樹 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/大谷亮治 イラストレーション/おおさわ ゆう
取材協力/岩本能史(club MY☆STAR主宰)