【Tarzan】西洋と東洋ではこう変わる。 自律神経の不調に効く食べ物。


ぼーっとしたり、イライラしたり……。不調別に挙げていただいた、東西のプロの意見を聞け!

規則正しい食事習慣はサーカディアンリズムを整え、自律神経の働きもおのずと調整していくもの。自律神経の不調の背後には、乱れた食生活が隠れていることは十分に考えられるから、まず欠食を避けることだ。
「栄養戦略の基本は血液の状態です。例えば、骨に蓄えたカルシウムは日中の活動で使われますが、造骨は就寝中、血中からカルシウムを取り込みながら進行します。ですから乳製品を就寝前に摂るのがお勧めです」と西洋医学の立場から提言する管理栄養士・二宮真樹さん。カルシウムが不足すればストレスに負け、イライラしやすくなるのは有名な現象。
「ストレスの強い人は腸内細菌叢のバランスが崩れているかもしれません。消化器官をコントロールするのは自律神経ですから、腸内細菌叢に悪玉菌が増えると、自律神経に影響が及ぶことも考えられます」
発酵食品、特にヨーグルトは積極的に摂りたいところだ。
「漢方では自律神経失調症はもちろん、すべての不調は心身バランスが崩れることで表れると考えます。血管もリンパ管も臓器も、全身にわたってつながっているから。問題は人体の構造ではなく、火照る・冷えるなど陰陽のバランスで体調を整えていきます」と薬膳の世界に誘うのは中医師の劉梅さん。
「同じ症状でも火照りがあればカラダを冷やす食材を中心に。冷えがあれば温める食材で、できるだけ旬のものを使い分けるのが薬膳です」
西洋、東洋、それぞれの長所を使い分け、おいしく体調を調整しよう。
 

〈ぼーっとする〉脳のコンディショニングと血液を増やす食材で改善。

「近年、アメリカの動物実験でベリーを食べさせたラットは、認知機能が向上したという報告があります」と二宮さん。
その有効成分は不明ながら、ベリー類には抗酸化力の強いアントシアニンが豊富。抗老化のためにも冷蔵庫に常備したい。
「脳の細胞膜のコンディションを維持する脂質源としてはクルミ、アボカドがいいでしょう。あとはω―3系の油、DHAやEPAの豊富な青背の魚とか」同じく細胞膜の材料としてはコリン、ホスファチジルコリンの豊富な鶏卵もいい。
「覚醒作用のあるカフェインは、パソコン作業時の瞼の痙攣や眼精疲労の予防にいいです」漢方では即効性を求めない。
「疲れているときに強い刺激で無理やり気力を振り絞ると、よけい消耗しそうですね。ぼーっとするなら、血液を補うものがいいと思います」と劉さん。
豚レバーはもってこいだが、ドライフルーツのようにほの甘いクコの実も、滋養強壮には広く使われる万能食材。
「クコやナツメは食べてもいいし、お茶に入れてもいいでしょう。ただし、すぐ元気になるわけではありません。医薬品のようにカラダに強く働きかけるのではなく、ゆっくりエネルギーを補うのが薬膳の考え方です」

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〈イライラする〉カルシウムの吸収率を高め、香り高い食材で熱を鎮める。

筋肉の伸縮に関わり、脳内では神経伝達物質として働くカルシウムは重要な栄養素だが、ミネラルは全般的に吸収率が低い。
「カルシウムはキレート作用が強く、クエン酸と摂ると結合して吸収率がアップします」と指摘するのは二宮さん。さらにカルシウムの吸収を促すものはビタミンD。きのこ類、卵、魚卵、肉類全般、そして乳製品にも多いので、
「ヨーグルトにレモンを加えると、夏場に低下しがちな集中力の維持に貢献するでしょう」
就寝前のヨーグルトは、ちょうどよいタイミングで翌日のお通じを整えてくれるはず。更年期のイライラやのぼせによい漢方薬、加味逍遥散や、慢性咳、胸の熱を冷ます滋陰至宝湯に用いられる生薬ハッカ(ミント)は、もやもや退治にものをいう。お茶で摂るのが一般的だが、揮発成分も多いため、煮立ててはダメ。煎じるなら火を消す5分前くらいに湯に入れる。
「鎮痛・解熱、デトックス作用のある菊の花を乾燥させたものは食べてもいいし、お茶にして香りを楽しむのもよいでしょう」と劉さん。菊花は中華食材店で手に入るが、近隣になければネット通販がラクだ。他にも、香り高いセロリには同様の効果がある。
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〈眠れない〉カギを握るのはタンパク質。和漢食材はなじみの薄いものも。

就寝時刻が近づくと、脳内の松果体から神経伝達物質、メラトニンの分泌が盛んになって、脈拍、血圧、体温などが低下し、質のよい睡眠に入りやすくなる、というのが定説。
「メラトニンは脳内でセロトニンから作られますが、その材料となるアミノ酸のトリプトファンを朝300~400㎎摂っておくと、乳幼児は寝付きと寝起きがよくなるという研究があります」と二宮さん。トリプトファンの豊富な食材といえばナッツ、アボカド、乳製品、大豆製品。魚介ならカツオやマグロの赤身に多いから、手頃なツナ缶でしっかり補給できる。シイタケやマッシュルームといったきのこ類にも含まれるし、意外やキウイにも!
「あとはアミノ酸のグリシンが睡眠の質を向上させます」こちらは鶏肉、豚肉、エビ、ホタテ、アーモンドに多い。一方の漢方では、カラダがカッカして寝付きにくければ、ユリ根(秋に野菜売り場に並ぶ)やセロリで冷ますと劉さん。
「腎の力が低下してパワー不足の状態なら、クコの実、山芋、竜眼肉やライチもいいでしょうし、陰でもユリ根は使えます」
ただし、加齢に伴う睡眠の質の低下は根治が困難。運動するなど、日中の活動も見直そう。
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〈めまいがする〉貧血なら鉄の吸収率向上を。松の実で抜け毛も予防しよう。

「何によるめまいかが問題で、まれにメニエール病の方もいらっしゃいますが、多くは鉄欠乏性貧血です」と二宮さん。
「鉄分を補給する際は、吸収率を高めるため、一緒にビタミンB₁₂と葉酸も摂ってください」
ビタミンB₁₂は葉酸と協力して赤血球の合成を促す。牛、鶏のレバーをはじめ、上にも出たカキ、サンマなど魚介に多い。
「いつものご飯を玄米にしても手軽に補えます」
酒好きが欠乏しがちな葉酸は、名前の通り葉物野菜に多い。ホウレンソウ、小松菜は身近な補給源。今の季節なら枝豆にも豊富。ビールのお供に最適だ。
「急に立った瞬間、立ちくらみやめまいがする人で、カラダに冷えがあったら陰の状態です。症状としては低血圧、貧血を伴うでしょう」と劉さん。
気力を補う、もうおなじみのナツメ、クコの実はここでも活躍するはずだ。
「体質的に血液の薄い人には松の実がいいでしょう。松の実は毛髪にもいいですよ」
漢方では松の実は髪のぱさつきや抜け毛を防ぐとされる。栄養的に見ると脂質、葉酸のほかビオチンが多いが、ビオチンの不足は脱毛、白髪の一因。これはなかなか興味深い、東洋と西洋の一致するポイントだ。
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〈お腹が張る〉食物繊維はバランスが大切。香り高い食材も胃腸を癒やす。

「便秘がちでお腹の張る人が、ゴボウなど不溶性食物繊維が多い食材ばかり食べても改善できません」と二宮さんはキッパリ。
「逆にお腹が下りやすい人もそうで、食物繊維は水溶性、不溶性のバランスが大切です」
不溶性が摂れているなら、ワカメやコンブ、アオサノリなどの海藻で水溶性食物繊維、アルギン酸を底上げしよう。その整腸作用で腸の蠕動を促す。こんにゃくのグルコマンナンも、代表的な水溶性食物繊維だ。
「オリーブ油のオレイン酸も腸の蠕動を促すことが知られています。加熱に強いので、頑張って生で飲む必要はなく、普段使いの調理油にいいですね」
下痢を伴うお腹の張りに対して、漢方の手札は多い。
「慢性の下痢なら煎ったハト麦、他には穀物の粟、ハスの実もいいです」と劉さん。ハト麦は水分の代謝を整え、粟は消化吸収力を改善する。先に出たハスの実は下痢止めに。
「ガスが溜まって、張りが強ければグレープフルーツをはじめ柑橘類全般。シソ、春菊といった香り高い食材がお勧めです」
グレープフルーツは豊富なクエン酸が気の巡りをよくし、胃痛や胃腸の不快感を抑えてくれる。シソと春菊は胃腸の働きを回復させる。
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劉 梅●りゅう・めい 【東洋】中医師、薬日本堂漢方スクール専任講師。黒龍江中医薬大学卒業後、ハルビン医科大学、北海道大学を経て2001年から現職。教壇に立つ傍らTV、新聞、雑誌などのメディアでも活躍。

二宮真樹●にのみや・まき 【西洋】管理栄養士、調理師、サプリメントアドバイザー。より高い次元での美と健康を追求するアーティストやモデルへの栄養指導のほか、メーカーの商品企画などではアドバイザーとしても活躍。

取材・文/廣松正浩 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 取材協力/劉 梅(中医師、薬日本堂漢方スクール専任講師)、二宮真樹(管理栄養士、調理師、サプリメントアドバイザー) 参考資料/『ハンディ版 薬膳・漢方の食材帳』(薬日本堂監修/実業之日本社)