【Tarzan】
ランナーならではのタンパク質の摂り方指南!


走る人の脂肪燃焼にも貧血予防にもタンパク質は不可欠。その理由をじっくり探ろう。

ランナーは体重1㎏当たり1.2〜1.4gのタンパク質を。

トレーニングを終えたら、シェイカーにプロテインの粉末と牛乳を入れてシェイクしてぐいっと飲み干す……。 それは筋トレ時だけの習慣と思われがちだが、実はランナーにもタンパク質摂取は欠かせない。ランニングのような有酸素運動を終えた後も、筋トレ時と同じようにタンパク質の摂取は不可欠。 なぜなら走力を左右するグリコーゲンの蓄積につながるからである。 運動の2大エネルギー源は糖質と脂質。このうち脂質は体脂肪として体内に10㎏以上も貯えられているのに、糖質はグリコーゲンとして肝臓と筋肉に合わせて数百gほど蓄積されているだけ。 運動時は脂質と糖質は同時に消費されるので、貯蔵量が少ない糖質が先に底をつくとそれ以上運動が続けられない。 そこでランナーは糖質をたくさん食べてグリコーゲンを増やそうとするが、糖質に加えてタンパク質も摂取した方がグリコーゲンは増えやすい。 グリコーゲンが多いほどハードな練習がこなせて走力は上がるし、レース本番でも高いパフォーマンスが発揮できる。 ランでも筋肉を構成するタンパク質は分解されるから、不足分のカバーも含めてランナーには体重1㎏当たり1.2〜1.4gの摂取がお薦めだ。

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走って痩せたいなら、牛乳より豆乳を飲め。

同じタンパク源でも、動物性の牛乳より植物性の豆乳の方がヘルシーというイメージが強い。 カフェラテより豆乳を用いたソイラテを選ぶ人も多いようだが、ランナーの間でも豆乳摂取が静かなブーム。ちなみにソイ(Soy)とは大豆という意味である。 栄養学的に牛乳と豆乳に優劣はないが、カラダを絞るために走っているなら、タンパク源としては牛乳よりも豆乳をチョイスするのが正解。 鍵を握るのはアルギニンというアミノ酸である。食品によってタンパク質を構成するアミノ酸の組成バランスは異なるが、 牛乳より豆乳の方がアルギニンは多く含まれており、アルギニンは2つの側面からランナーをアシストしてくれる。 第一にアルギニンは血管拡張作用を持つ一酸化窒素(NO)を増やす作用を持つ。血管が広がり、血液循環が改善すれば、運動能力はそれだけアップするはず。 次にアルギニンは成長ホルモンの分泌を促す。成長ホルモンは筋肥大との関わりがずっと注目されてきたが、最近体脂肪の分解を促進する作用の方が高いとわかった。 体脂肪はランニングの有力なエネルギー源だから、アルギニン豊富な豆乳を飲めば、体脂肪を有効活用したトレーニングが行えるはずだ。

BCAAを摂取すると、パフォーマンスが上がる。

筋肉のタンパク質を作る20種類のアミノ酸の中で、体内で合成できないため、食事から毎日取り入れるべきなのが、9種類の必須アミノ酸。 なかでもBCAA(分岐鎖アミノ酸)と総称されるバリン、ロイシン、イソロイシンは運動時に筋肉のエネルギー源となりやすく、ランナーの筋肉の損傷を防ぐために事前の摂取が推奨されている。 加えてランニングのような有酸素運動時には、BCAAの摂取が疲労を抑えるという報告がいくつかある。仕組みはこうだ。 脳で疲労を感じるプロセスには、同じく必須アミノ酸であるトリプトファンが関わっている。偶然にも、BCAAは脳内にトリプトファンと同じ経路を介して運ばれる。 このため事前にBCAAを摂取しておくと、経路を共有するトリプトファンの脳内への取り込みが抑えられるから、疲労がセーブされる可能性があるのだ。 ただし、エビデンス(科学的な根拠のある研究)レベルでは、BCAAがランニング時の疲労の軽減、パフォーマンスアップに有効だと100%結論づけられているわけではない。 いまだに賛否両論だから、BCAAを摂っても効果が体感できない場合は無理に摂り続ける必要はないだろう。

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ランナーの敵、貧血予防にタンパク質は不可欠である。

ランは酸素を介して糖質と脂質を代謝しながら行う有酸素運動。酸素がないと始まらないが、ハードな練習を重ねると血液中で酸素を運ぶ赤血球のヘモグロビンが欠乏することがある。 それがランナーに多い貧血。とくに気をつけたいのは溶血性貧血と鉄欠乏性貧血だが、いずれもタンパク質が足りないと防げない。ヘモグロビンはタンパク質と鉄分が合体したものだからだ。 着地するたびに体重の2〜3倍の衝撃が加わるランニングでは、足裏を流れる血液中の赤血球の膜が破れてヘモグロビンが漏れ出てくる。 漏れたヘモグロビンは腎臓で回収されて赤血球に戻されるが、長時間走り続けると回収が追いつかなくなり、オシッコで体外に排泄されてヘモグロビンが足りなくなる。これが溶血性貧血。 走ると汗を大量にかいて、水分と一緒に鉄分などのミネラルも失われる。鉄分が不足するとヘモグロビンも減る。これが鉄欠乏性貧血。生理で血液とともに鉄分を失う女性にはこの貧血が多く見受けられる。 貧血予防のために鉄分をサプリなどで補っているランナーは多いが、タンパク質を過不足なく摂らないと溶血性貧血も鉄欠乏性貧血も避けられないのである。

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取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 取材協力/藤田 聡(立命館大学スポーツ健康科学部教授)

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