食材、食事法、五感を使うなど胃バテを防ぐ方法は多数ある。組み合わせて行うとより効果的だ。
案外不足しやすいカリウムは、夏野菜と新鮮な果物で補おう。
欠乏で胃バテの引き金になる典型例はビタミンB群だが、意外に見過ごされているのがカリウム欠乏。カリウムはナトリウムとともに神経や筋肉の機能を維持するのに欠かせないミネラルである。カリウムは通常不足しない栄養素だが、ナトリウムほどではないが発汗で同様に排泄されやすい。「さらに糖分入りのカフェイン飲料をがぶ飲みすると、糖分やカフェインとともに体外に排泄されやすくなります」(本郷赤門前クリニックの吉田たかよし先生)。甘いアイスコーヒーやエナジードリンク、炭酸飲料の飲みすぎは避けよう。
カリウムが足りないと神経や筋肉が正しく働かないため、倦怠感や疲労感といった夏バテの症状が出やすい。ナトリウムとカリウムは腎臓から共輸送体によりセットで排泄される仕組みが備わっている。カリウムが足りないとナトリウムが相対的に増えるから、ナトリウム濃度を一定に保つために体内の水分量が増えて、むくみや水太りが生じる。
ただしカリウムはサプリではなく食品から摂るのが鉄則。「カリウムは過剰摂取すると死亡の恐れがありますから、高純度のカリウムのサプリを売っていないほどです」。カリウムはモロヘイヤやトマトなどの夏野菜、スイカやバナナなどの果物に含まれる。食品で摂る分には過剰摂取の恐れはないからご安心を。
オルニチンとクルクミンで代謝の中枢・肝臓を元気にする。
蒸し暑さを吹き飛ばしてスカッとするためにいざビアガーデンへ。唐揚げとフライドポテトをつまみに冷え冷えの生ビールで乾杯! というのもストレス解消には悪くないが、ほどほどにしないとお酒の飲みすぎ、揚げ物の食べすぎは胃バテにはマイナス面が大きい。なぜなら肝臓の負担が増えてしまうからだ。
肝臓は人体最大の臓器であり、5大栄養素の代謝に深く関わっている。肝臓がダメージを受けると栄養素不足で疲労感マシマシだが、アルコールや、揚げ物のような脂肪分過多の食事は肝臓の負担を増やすだけ。アルコールは肝臓でしか代謝されないし、消化管で脂肪を分解するには肝臓が作っている胆汁による乳化作用が欠かせないからである。
代わりに摂りたいのはオルニチンとクルクミン。オルニチンはアミノ酸の一種であり、肝臓のオルニチンサイクルでエネルギー代謝の邪魔をするアンモニアの解毒を促して、疲労回復を助ける。クルクミンには抗酸化作用があり、肝臓で代謝されると腸管と肝臓を行き来する腸肝循環に入り、抗酸化作用を持続させて肝臓を守ってくれる。オルニチンはシジミ、クルクミンはウコンの成分だが、継続的に摂るならサプリメントを使うのがより現実的である。
酸味のある食べ物で食欲増進。有機酸でエネルギー代謝を促す。
夏になると酢の物など酸味のある献立が増えるのは食品のpHを酸性に傾けて微生物の繁殖を防ぐ先人の知恵だが、同時に酸味には夏バテを避ける働きがある。
そもそも味覚は甘味、旨味、苦味、塩味、酸味という5つの基本味からなり、その組み合わせが食べ物の美味しさを決めている。味覚を感じるのは、舌に無数に備わった繊細なセンサーである味細胞。基本味はそれぞれ異なる味細胞でキャッチされることがわかっている。酸味は腐敗した異物を見分けるために発達したと考えられているが、酸味の役割はそれだけではない。
第一に酸味を効かせると暑い日でもさっぱり食べられる。素麺に梅肉を添えたり、冷やし中華に黒酢をかけたりすると、普段よりも箸が進む所以である。さらに適度な酸味と塩味は副交感神経を介して唾液の分泌を促して、交感神経をオフにして胃腸の働きを改善。胃バテの予防に効力を発揮する。
そして酸味の活用は食欲不振によるエネルギー不足を解決してくれる。酸味の正体は酢酸やクエン酸などの有機酸。有機酸にはエネルギー代謝を促進する働きがあるため、夏場の疲労回復をサポートしてくれるのだ。酢が苦手な人はレモンなど柑橘類の優しい酸味を利用してほしい。
ネバネバ食品+肉類orマグロは、うな丼を超える最強スタミナ食。
日本の蒸し暑い夏を乗り切るスタミナ食の代表といえばウナギ。現在のように養殖が盛んになるまでは天然ものしか出回っておらず、元来は冬が旬ゆえに夏場のウナギは痩せて味もイマイチ。夏場の売れ行きの落ち込みに悩む鰻屋から相談された江戸時代の才人・平賀源内が「土用の丑の日にウナギを食べる」というPR法を考案。以来、ウナギは夏の風物詩となったという説が有力である。
この説が真実なら盛夏のうな丼はバレンタインチョコや恵方巻きと同列の単なる季節モノだが、ウナギは9種類の必須アミノ酸が揃う良質のタンパク源であり、ビタミンAやビタミンB群も豊富だから滋養強壮に役立つ。そしてウナギのヌルヌルの正体である多糖類には胃の粘膜を保護する働きがあり、胃バテの回復にもひと役買ってくれる。
「でも、残念ながらウナギは値段が高騰しすぎて1シーズンに何回も食べられない。そこでウナギの代わりにトロロや納豆などのネバネバ食品と豚肉や牛肉、マグロなどを一緒に食べてください」(吉田先生)。ネバネバ食品はウナギ以上に多糖類たっぷり。豚肉も牛肉もマグロも良質のタンパク源で、ビタミンAやB群を含んでいる。ネバネバ食品を先に食べると胃が守られ、あとから食べる肉類や魚介類の消化吸収も進むのだ。