【Tarzan】
トレーニングのはなし


単純なようで複雑。カラダ作りに誤解はいっぱいだ!
理想のカラダを目指してあれやこれや手を打てど、逆効果になることも!?

【NG!】初心者は初心者用シューズを履いていれば間違いない。

ランナーにとっていちばん重要な道具はランニングシューズ。足に合わないシューズでは走力も上向かないし、障害が起こるリスクも高まるから、ランニング専門店で自分にフィットする一足を探したい。
デザインだけで選ぶのは論外だが、スタッフが薦める初心者用シューズを買えば絶対間違いないとも言い切れない。ランニングコーチの岩本能史さんは①高い反発力を備えている、②大きすぎず小さすぎず、踵とヒールカップが完全に合う、③足裏全体で自然に着地できるという3点をクリアしたい最低条件として挙げる。
足裏全体でフラットに着地するには、踵だけが分厚くて爪先と踵の高低差(ドロップ)が大きいものを避けるべき。衝撃吸収性を十分確保しつつ、ソールが薄く安定性に優れたモデルが理想だ。ナイロン素材などの高反発のプレートや樹脂が入っていれば、蹴り出しを助けて推進力を高めてくれる。そしてサイズが合わないと足指で踏ん張ってふくらはぎの小さな筋肉を使い、末端から疲労のドミノ倒しが始まるから、踵とカップソールは鍵と鍵穴のようにフィットさせる。じっくり試してお気に入りの一足を見つけることから、ランナーとしての成長が始まるのだ。
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【NG!】ランナーに筋トレは不要である。

ランでは筋トレなどの補強トレに頼らず、ひたすら走ってパフォーマンスを高めるべきだという説もあるけれど、そこには落とし穴がある。ランでは心肺機能と筋力の成長に時間差があり、心肺機能の方が先に発達する。同じスピードでも息が上がりにくくなり、ペースを上げたくなるのだ。ペースが上がるほど着地衝撃などの負担が増え、筋力が追いつかないと膝などに障害を負いやすい。スピードを抑え、筋トレでランに求められる筋力を養うと怪我が避けられるし、走力の早期向上につながる。
とはいえ、ランナーの筋トレは、筋肥大狙いの筋トレのようにゆっくり上げてゆっくり下ろすような動きとは異なる。ランで地面に接地している時間はわずか0・2秒ほど。筋肉は短時間に反射的に使われているから、素早く動きを切り替える筋トレで着地時に衝撃を受け止める太腿前側の大腿四頭筋、脚を後ろに引くお尻の大臀筋と太腿裏側のハムストリングス、引いた脚を戻す腹筋群といった筋肉を強化するのが正解。

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【NG!】レース前のロング走はガス欠気味で頑張る。

かつて「運動中は喉が渇いても水分を摂らずに我慢しろ」という根性論が幅を利かせた時代があった。いまではこまめな水分補給が重要だと誰もが知っているが、食事はなるべく無補給で走った方が潔いという誤解はまだある。「レース前のロング走は無補給で走り、ガス欠を体験した方がいいと思っているランナーもいるようですが、それでは失敗レースに終わる可能性が高くなります」。
ロング走をガス欠気味で走ると、不足したエネルギーを賄うために筋肉のタンパク質が分解される。練習でせっかく鍛えた筋肉を失うと後半の失速の一因となるのだ。加えて一度ガス欠を経験すると、カラダは飢餓を避けるために早めに「疲れたからもうやめろ」というサインを出すようになり、終盤で疲労感から足が止まるリスクを高める。ロング走のように練習時間が長いほど、そして走力が低くてゴールまで長く時間がかかるほど、多くのエネルギーが必要になる。トレーニング中はもちろんレース中でも定期的にジェルなどでエネルギー補給しながら走りたい。

【NG!】レース前には必ず30㎞走を行うべきである。

フルマラソンの直前には30㎞走を行った方がいいという定説がある。
42・195㎞を普段のペースで走り切れるかどうか不安だから、30㎞まで走っておけば安心という発想なのだろうが、事前に30㎞走をやって効果的なのは月間走行距離が180㎞以上のランナーのみ。これは岩本さんが長年の経験と観察から導き出した6分の1の法則(一度に走っていいのは月間走行距離の6分の1まで)による。「膨大な数のランナーのブログを定点観察し、レース前の練習で怪我をするランナーとしないランナーを比べた結果、この法則を見つけたのです」。
そう言われると、毎月のようにフルマラソンに出るベテランたちはフルの6倍に当たる250㎞以上毎月練習しているタイプが大半。行き過ぎた距離信仰は戒めたいが、マラソンは長い距離に挑む運動だから、ある程度の練習量が求められるのだ。
この法則に従うと月間120㎞の人が一度に走れるのは20㎞まで。いつものペースで30㎞走を行うと、20㎞を超えた10㎞は着地で酷使される太腿などの筋肉の破壊行為で、トラブルにつながる。月間250㎞未満のランナーが初フルを怪我なく走り切るためには、練習よりペースを落とすしかないのである。

取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/大谷亮治 イラストレーション/岡田丈 監修・指導/岩本能史(club MY☆STAR主宰)、坂詰真二(スポーツ&サイエンス)