【Tarzan】
腸にも大いに関係アリ、
老化物質AGEに気をつけろ!


ちらほらと名前を聞くようになったAGE。老化を促進するというこの物質と腸内環境との関係とは。

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ACE is 病的な老化を促す悪玉物質。腸の老化の元凶にも。

熱々に熱したフライパンに真っ白な生地をじゅわわと流し込む。こんがり焼き上がったパンケーキにバターとメイプルシロップをたっぷりかけて、いただきまぁす! そのパンケーキの魅惑の焼き色や香ばしい匂いは、1912年に発見されたメイラード反応によるもの。タンパク質を構成するアミノ酸と糖質を一緒に加熱すると褐色に変化する。日本語では文字通り褐変反応という。 調理変化だけの話であれば、〝おいしそう〟で事は済む。実際、メイラード反応は発見されてから約70年はそんな呑気な話で終わっていた。ところが、80年代に入ってから、どうやら同じような化学反応が体内でも起こっていて、老化を促す原因であることが明らかになってきた。 老化のリスクファクターといえば活性酸素による酸化が有名どころ。これに対して体内で起こるメイラード反応を糖化という。糖化によって生成される物質の名はAGE(Advanced Glycation End productsの略)。訳すと何やら恐ろしげな「終末糖化産物」。

血液によって運ばれてくるカラダのエネルギー源、ブドウ糖が体内を構成するタンパク質と結合し、36度前後という塩梅のいい体温によって糖化という化学反応を起こす。で、パンケーキの一丁上がりだ。一度焼き上がったパンケーキは元の材料であるタンパク質と糖質に逆戻りすることはない。まさに、終末糖化産物という名の通り。 AGEとひと口にいっても、化学構造が分かっているものは十数種類。まだまだ未知の物質もあると推測されていて、そのうちのどれが老化の本体なのかは定かでない。ただはっきりしていることは、AGEは体内の細胞の主成分、タンパク質に蓄積されて本来の機能を低下させるということ。 AGEの害を受けやすいのは、血管、皮膚、骨などコラーゲンが多く存在している部位。コラーゲン線維は建物でいえば鉄筋に当たる、細胞の屋台骨として柔軟性や弾力性を維持するタンパク質だ。その鉄筋にAGEが蓄積されて弾力性が失われ、厚く硬くなる。

コラーゲンは体内のタンパク質の中でも飛び抜けて寿命が長く、赤ちゃんの時に作られたものが20歳になったカラダの中に残っているともいわれている。 生理的にコラーゲン線維同士が結びついて強度を増すということはあるが、AGEに絡め取られることによって古いコラーゲンがそのまま体内に残り、代謝が滞ってしまうのだ。 こうして引き起こされるのが、シワやシミ、動脈硬化、糖尿病、骨粗鬆症、アルツハイマー病などなど。むろん、小腸や大腸にも悪影響を及ぼしていることは十二分に考えられる。 腸管を形成する筋肉、平滑筋の中にも当然コラーゲンは存在する。小腸の上皮細胞には無数の血管が走っている。栄養を消化吸収する小腸には絶えず糖質が送り込まれてくるので、ここでAGEが生成されないわけがない。その結果、腸管上皮が硬くなり、消化吸収能力が低下し、蠕動運動を起こすしなやかさが失われることは容易に想像できる。 さらには大腸。小腸で消化吸収しきれなかったタンパク質や糖質が送られてきたとしよう。加齢によって腸内環境が悪くなってくると、そこで食物のカスが停滞してしまう。で、さまざまな有害物質が蓄積されて腸内が腐敗し、慢性の炎症反応が引き起こされる。 慢性タイプの炎症はAGEが作り出される温床となり、蓄積されたAGEによって、ますます炎症が助長されるという悪循環に。 加齢によって体内にAGEが発生することは、残念ながら致し方ない。ただ、生活習慣によって血液の中に糖質がダブついている状況に陥る、過剰な肉食や食物繊維不足で腸内環境を乱す、その結果、余計なAGEを自ら作り出してしまう可能性は大いにある。これは紛れもなく自己責任。 糖化の害にいち早く警鐘を鳴らした抗加齢医療の分野では、AGEをスキャンする計測器も導入されている。腸の老化を防ぐために、体内のAGE蓄積レベルをチェックしてみる手もありだ。さらに対処法は以下のページを参考に。

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AGEを下げて腸を守る6つの方法。

【Method 1】NG食品と調理法をチェック!

AGEは日々体内で少しずつ作られている。ある意味、これは宿命のようなものだが、余分なAGEを蓄積させない方法はある。そのひとつは、食べ物に含まれるAGEを極力体内に入れないことだ。 食べ物から消化吸収されるAGEの量は、全体を100とするとおよそ10%。このうち、体内に残るのは約7%といわれている。たかが7%と侮ってはいけない。それらが寿命の長いコラーゲン線維にくっつけば、長期間体内にAGEを抱え込むことになる。 主食でいうと、パン、パスタ、コーンフレーク、パンケーキなどに多くのAGEが含まれている。これに対して炊いた白米は、トーストしたパンの3分の1のAGE量。主食選びひとつにしても、老化を高めるリスクに繫がる。 また、同じ食材でも、生で食べるのと短時間で高温調理したものとでは、AGEの量がケタ違い。AGEの生成は加熱によって促されるので、むろん後者の調理法の方がリスクは高くなる。 とくに、唐揚げ、ポテトフライ、ハンバーガー、ステーキ、糖質たっぷりの清涼飲料水はAGEの宝庫。絶対に食べてはいけないとは言わないが、週1では明らかに食べ過ぎ。ファストフード店やファミレスではご用心。

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【Method 2】「生」「茹」「煮」の和食を狙え!

一気に強い火力で熱を加える調理法は、AGEをより大量に発生させる。なかでも炒める、揚げるといった調理法は、1日3回の食事で最大でも1回程度に抑えておきたいところ。 で、おすすめなのがニッポンが誇る和食。伝統的な和食では、洋食や中華料理に比べて炒める、揚げるといった高温調理法はそう多くない。 前項の表をご覧の通り、生の状態のローフードはAGEが最も少ない。ならば刺し身という手がある。生野菜ならおしんこや酢の物というチョイスがある。 また、茹でる、煮るという調理法は焼くよりAGEの量が抑えられるので、焼き魚より魚の煮付け、焼き鳥よりは水炊き、豚のしょうが焼きより豚しゃぶがベター。 主食、主菜、副菜、汁物を取り揃え、栄養バランスを整えつつ低カロリー食をいただけば腸も喜ぶというもの。 ひとまず今夜は、寿司か鍋でどうでしょう。

【Method 3】1日3食、野菜を先に食べる。

巷のダイエット法でもすすめられている通り、食事の際はまず野菜から口にする。 理由は血糖値をむやみに上げないためだ。糖尿病患者とそうでない人を比較すると、AGEの量は圧倒的に前者の方が多い。高血糖の状態が長くなればなるほど、AGEが溜まりやすくなることが分かっている。 糖尿病やその予備軍ではないという場合でも、いきなり血糖値を上昇させないことは大前提なのだ。 和食を食べるときはおひたしを先に、洋食ならサラダを先にいただく。実際、多くの研究で野菜を先に食べた場合の方が、食事開始後の血糖値の上昇率がゆるやかなことが明らかにされている。 さらに食物繊維は腸内の善玉菌の大好物。主菜ばかり食べていると腸内環境は悪化し、AGEはますます余分に生成されてしまう。腸内環境を整える意味でも、1日3度の食事のスタートは野菜からどうぞ。

【Method 4】ひと口ひと口、ゆっくり咀嚼。

牛丼を飲むがごとく一気にかき込む。時間にしてものの5分。またはうどんをつるつるっと勢いよくすする。完食まで約3分。 この早食い習慣もAGEを増やす引き金となる。大量の糖質が胃から腸へ一気に届くことで、糖とタンパク質が反応しやすくなるからだ。よって、腸に食べ物が到達するスピードをできるだけ遅らせることが重要。 方法は簡単。ひと口ひと口ゆっくり咀嚼しながら食べること。ごはんは粒状の食感がなくなるまでしつこく嚙む。麺類は喉越し重視で食べず、野暮を承知でもぐもぐ嚙んでいただく。 その他、おにぎりなど手で簡単に食べられるものより、カトラリーを使って食べる食事を心がける。誰かと会話しながら食事をすることも食べ物が腸に届くスピードを遅らせる手。ひと口目から完食まで最低でも20分はかけたい。 また、糖質の量自体を減らすために、丼ものは避けて定食を選ぶことが基本のキ。

【Method 5】デザートは食事の〆に少量を。

空きっ腹で甘いケーキをぱくぱく食べる。これ、AGEウェルカムと言わんばかりの所業。 第一、そのきつね色のスポンジ生地にすでにAGEが大量に含まれている。さらに空腹時に高糖質食品を食べることで血糖値が一気に上がり、小腸に大量の糖質が送り届けられることになる。もうこの時点でAGEが怖いくらいに大発生。 空腹時には、クッキー一枚、あめ玉ひとつとて甘いものを口に入れないこと。スイーツなしの人生が考えられないという場合は、食後の〆にちょっぴりいただく。頻度はたまのごほうびレベルにすることは、言うまでもない。

【Method 6】食後1時間以内に運動する。

仕事の付き合いでついパスタやピザを食べちゃった。おもたせのスイーツを断り切れず、ぺろりと平らげてしまった。 普段より糖質を摂りすぎてしまったというときの緊急対処法は、食後に歩く、または走ること。糖質を摂ると約15分後に血糖値が上昇し、インスリンが分泌されて血糖値を下げる。 そのインスリンの反応を上回る高糖質食を口にしてしまうと食後高血糖の状態が長らく続く。これを防いでくれるのが食後1時間以内のウォーキングやジョギング。 筋肉の細胞の中には、血液中の糖質を内部に取り込む糖輸送担体が存在している。これをGLUT4という。 運動をすると、AMPキナーゼと呼ばれる酵素が活性化して、このGLUT4を細胞の表面に移動させる。で、血液中の糖を細胞内に引き込んでエネルギーとして利用するという仕組み。つまり、インスリンに頼らない別ルートで糖質をエネルギー源としてどんどん活用することができるのだ。 ウォーキングなら食後すぐに始めて速足で20分。ジョギングなら食後1時間以内にスタートしてやはり20分。血液中の糖質を速やかに筋肉に送り込んで、AGEの増殖を防ごう。

取材・文/石飛カノ 撮影/石原敦志 スタイリスト/村上由佑 ヘア&メイク/村田真弓   取材協力/太田博明(山王メディカルセンター センター長、東京健康クリニック特別顧問)

tarzan669-00『ターザン(669号)』は、「日本人の腸内環境が危ない!」特集です。
2015年4/9号(3/26発売)マガジンハウス 定価500円(税込)