脳科学は「恋愛」にも活かせる! 出会い、デート、そしてセックス。さらには倦怠、復縁まで。
恋愛脳科学のトップランナーが、あの子の攻略法を手ほどき!
脳が相手の「好き」「嫌い」を決める 。
男女が恋に落ちる瞬間は、さまざまなシーンが想定できる。街の一角でぶつかった相手がめちゃくちゃ好みのタイプ、なんて運命的な出会いもあれば、長年友達だった相手がふとした瞬間から恋愛対象に変わることもある。もしかすると、今隣のテーブルでコーヒーを飲んでいるあの子と恋に落ちる可能性も……。だってほら、さっきからチラチラこっちを見ていない?「人は惚れる前段階として、まずは異性の顔を見ます。この時脳内では、コミュニケーションにおいて大切な社会脳の一つである眼窩前頭皮質が働いているのです。ここは意思決定などの認知処理に関わる部分で、美しい人や好もしいと思う人を見ると眼窩前頭皮質のド真ん中が反応する。これがいわゆる一目惚れです。反対に、この人ちょっとイケてないなと思うと、今度は端が働く。つまり、相手に対しての好き・嫌いは脳が自動的に判断しているのです」と話すのは、恋愛脳科学のプロフェッショナル、脳科学者である中野信子先生。ということは、彼女の脳内では今まさに、好き・嫌いのフォルダー分けが行われている最中かもしれない。ちなみに、アメリカではこんな研究もある。女性1人と男性4人の写真を用意し、この男性群の中に1枚だけ女性の夫の写真を交ぜておく。この写真を、2人の関係を知らない他人に見せて「どの男性が一番写真の女性に似ていますか?」と問いかけたところ、夫の写真を選ぶ割合が多かった、というものだ。
「人は普段見慣れた顔を好む傾向があります。つまり毎日鏡で覗く自分の顔に似た人を選ぶことが多い。恋人はだんだんと似てくるというけれど、実は出会った瞬間から、自分と似ている人を脳が勝手に選んでいるのかもしれませんね」(中野先生)
お互いに似たような雰囲気を感じ ているとしたら、それはもしかする と恋のチャンス到来かも?
付き合うと、どんな 「いいこと」があるか予測する。
もしも女性がアナタに好意を抱い たのなら、脳内ではすでにあらゆる 妄想が繰り広げられている可能性が 高い。例えば「この人と食事に行っ て会話をしたらどれだけ楽しいだろ う」とか、「初めのデートはこんな 所に行きたいな」などなど。脳がタ ーゲットを好きか嫌いか判断した後〝惚れる〞に発展するには報酬予測 と呼ばれるこの妄想が不可欠なのだ。 この時、彼女たちの脳内で起こって いる過程を簡単に説明すると、こう。
まず、付き合うとどんないいこと があるかを想像すると、報酬系と呼 ばれる神経系(大脳新皮質の帯状回、 前帯状皮質、腹側被蓋野など)が働 き、これらがドーパミンという物質 を脳内に放出する。ドーパミンが出 るとカラダは気力に満ち溢れ、疲れ を感じなくなり、この快楽や喜びを 再び得ようと報酬予測をした相手に 強く会いたいと願うようになる。こ れがいわゆる惚れるという現象だ。 かつては生命維持のため食欲や睡眠 欲に反応していた報酬予測も、今日 では金銭的な報酬や他者からの賞賛 など目に見えない〝ご褒美〞にも反応することが明らかになってきた。
妄想は女性の得意技かと思いきや、実は男も一緒。「あの子を抱きしめたいな」なんて想像をしたら、それはもう立派に惚れている証拠。
「ところが、報酬予測に関与する腹側被蓋野(VTA)は、恐怖心を司る扁桃体とも密接な関係にあり、ネガティブな報酬予測に繫がってしまうことがあります。例えば、ホラー映画のスリルが快感と隣り合わせだったりする。これはVTAと扁桃体が近くにあることで、性的なドキドキと恐怖心のドキドキを脳が間違えてしまうためなんです」(中野先生)
傷つくのが怖くて意中の相手にアプローチができないのも、ドキドキをネガティブに捉えた脳がブレーキをかけている可能性が高い。女性が不安なそぶりを見せていたら、自ら声をかけて恐怖心を和らげてあげることでポイントアップに繫がるかも。
セックスによってドキドキと愛着の両方を得る。
無事に恋人同士となったふたり。もっともっと彼女のことを知りたくて、より親密関係になりたいという気持ちが止まらない。それにはやはり、セックスがキーとなるようだ。
「愛着を形成するために重要なオキシトシンという物質は、ストレスの低下やリラックス効果などカラダにいい影響をもたらします。男女ともにオルガスムスによりこのオキシトシンが分泌されるため、愛着心を育むにはセックスがとても重要なんです。ちなみに女性の場合は子宮頸部ヘの刺激でもオキシトシンが出やすいといわれています。これは、恋人としてまだ気持ちが昂りきっていない段階でも、セックスにより強い愛情を感じやすくなるということ。たとえ好意を持っていない人だったとしても、です。男性はこれを理解したうえで、カラダの関係を大切に考えてほしいですね」(中野先生)
セックス時にはもう一つ、オキシトシンと同時にドーパミンも放出されている。これがいわゆるドキドキの源。そんな幸せ絶頂期のふたりの脳内では報酬系が活発的に働いている一方で、判断能力と社会性を司っている前頭連合野の活動が低下している。これは、恋人の顔を見る時には客観的・社会的な判断が飛んでしまっている証拠。すなわち恋愛中は相手の悪いところは目に入らない、周りの意見が耳に入ってこない、そんな「恋は盲目」現象が起きてしまうというわけだ。
半年経つと刺激が減り、トキメキを求める。
付き合い始めてもうすぐ1年。お互いすっかり馴れ合いになって、あの頃のドキドキ感はどこへやら。最近じゃ彼女、化粧も手を抜いているようだし、ダイエットも怠けてちょっとポッチャリしてきたみたい。一体彼女のどこに惹かれてたんだっけ……。もしかしてこれって倦怠期?
「相手に惚れている時はその人のことを考えるだけでドーパミンが出るのですが、実際に付き合い始めると欲求が満たされ、急激にドーパミンの量が減ってしまう。恋愛感情の昂りが続くのは短い人で半年、長い人でも3年といわれています。トキメキの快感はすごく楽しいものなので、ドーパミンが減ると刺激を求めて浮気に走る人がいる。浮気を繰り返す人は肉体関係ではなく、実はトキメキを求めているのです」(中野先生)
刺激がなくなったことを彼女のせいだと決めつける前に、まずは自分の生活を見直してみよう。ヨレヨレのスーツに乱れた頭、デートの待ち合わせには決まって遅刻。そんな行動が身に覚えのある人は要注意。だって女は、他の女性からチヤホヤされるぐらいモテる男を好むのだから。こんな実証データがある。2人の男女が楽しそうに話している写真と、背を向けている2枚の写真を用意する。これを第三者である女性に見せたところ、男女が仲良くしている写真の男性を魅力的と感じる傾向にあった。これは写真の女性が幸せそうにしていることで「私も同じようにしてもらえるかも♡」と考える、女性脳特有の反応だ。つまり、誰かに選ばれた男性を魅力的に感じ、略奪したくなるという。彼女や妻を持ち、それも幸せそうにしている男性がモテやすいのはこのため。彼女が手を抜いているせいでトキメキがなくなったと腹を立てる前に、周りの女性たちを虜にするほど魅力的な男になるよう努めよう。するとほーら、他の女に取られまいと、彼女が自分磨きをこっそり始めてくれるはず。
取材・文/黒澤祐美 撮影/中島慶子 スタイリスト/七森美和(STUTTGART) ヘア&メイク/TOYO イラストレーション/横田ユキオ 監修/中野信子
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